こんな話を授業でした

世界史講義録
第3回 文明誕生

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文明誕生
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 さて、約1万年前、旧石器に代わって、新石器時代が始まります。磨いて加工した石器、磨製石器が登場します。こんなのですね。(石器の写真を見せる)

 打製石器に比べて持ちやすいのはわかるね。
 しかし、打製石器も馬鹿にならんよ。
 打製石器持ってきました。あ、これは○○先生がつくったの。奈良と大阪のあいだの二上山でサヌカイトという石器のいい材料がでるのですが、それを割ってつくった。ほら、こんなものでもよく切れるでしょ。(板の上で、新聞紙をシャキシャキと切り裂く)

 次に農耕の起源です。メソポタミア地方で最初の農耕が始まったというのが従来の定説でしたが、最近いろいろな発掘調査で、中国の長江流域ではそれより遙か以前、1万3千年前くらいから稲作が始まっていたことがわかってきました。
 長江流域で定住生活が始まったのはさらにさかのぼって、1万6千年前といわれています。人は定住して土器を作成しはじめます。先日(4月17日)朝日新聞に載っていましたが、日本でも1万6000年前の土器が出土しています。
 これからも世界各地で、さらに古い遺跡が発見される可能性は充分あります。農耕の起源、発生地については、今のところ不明です。

 メソポタミア地方では、約7000年前には麦作と牧畜が始まります。イラクのジャルモ遺跡が有名です。

 農耕牧畜によって、食糧の収穫が予想できるようになる。うまくすれば、食べる以上に生産できる。その日その日を狩猟・採集で生活していたのに比べれば、どれだけ生活に余裕ができたことか。これを、食糧生産革命といっています。革命というのは、世の中がひっくり返るような変化に対する呼びかた、と考えておいてください。

 ここから、ちょっと難しい話です。
 さっき、食べる以上に生産できた、と言いました。これ、難しい言い方で余剰生産物という。農業技術も改良されていきますから、余剰生産物は増加します。この余剰生産物が文明を生んだとってよい。

 余分な食糧ができると、働かなくてもよい人々がでてきます。
 
 以前ならみんなが同じ仕事をしていたのに、違う役割で生きていく人たちが出現する。これを、階級の発生といいます。
 どんな人たちかというと、まずは神に仕えるような人たち、神官です。たぶん、農耕がうまくいくように天候を神に祈る人々が最初にでてきた農業をしない人たちだ。
 邪馬台国の卑弥呼も一種の神官です。彼女は、奥にこもってみんなには顔も見せずに神に祈っている。特殊な能力があると信じられていたんだろう。
 神官は、一般の人たちからその能力を恐れられるでしょう。そして、権力を持つようになるんだね。
 
 権力を持つ者は、必然的に自分が生きていくのに必要以上の土地や家畜を持つようにもなります。私有財産という。
 
 神官以外に、戦士も生まれてくる。他の集団から自分たちの集団を守るためにかれらも農耕を免除されて、特権階級になっていく。職人も、農業以外の仕事だけをする人々だ。

 マジカルな能力、人並みはずれた体力や体格、技能、あるいは人格的統率力、そういう力を持つ人々がリーダー層になる。階級分化です。
 やがて、指導者が支配者となって国家が生まれます。
 国家といっても、村がそのまま国になる、小さなものです。吉野ヶ里遺跡なんかは、そんなものの一つでしょう。
 この小さな国家を歴史学では、都市国家といいます。自分たちの集落を守るため集落の周りには城壁をめぐらせます。都市国家はみな、城壁を持っています。
 国家の支配者は租税を集める。誰からどれだけ税を徴収したか記録する必要がでてくる。文字はそのために発明されたともいわれます。

 階級、私有財産、都市国家、そして文明が生まれてきます。

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四大文明
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 農耕が世界各地で始まるのですが、その中で文明と呼べるものを生み出した地域が四つあります。すべて、大河の流域に生まれました。
 メソポタミア文明---ティグリス・ユーフラテス河
 エジプト文明---ナイル川
 インダス文明---インダス川
 黄河文明--------黄河

 古い順に列べてあります。
 長江文明を言う人もいますが、まだ評価が定まっていませんから、ここでは覚えなくてもいいです。
 それぞれの話は次回以降にやります。
 今日はこの四大文明の共通点を確認して終わろう。

 写真を見てもらうとよく分かります。みんなよく似た風景でしょう。
 この四つの地域はすべて年間平均気温が20度前後、どちらかといえば雨が少なく乾燥地域です。しかし、水があれば農耕可能なんだ。そして、大河が流れている。水があるわけね。しかし、この大河の水をコントロールするには、多くの人が知恵と力を合わせる必要がありました。
 努力をすれば生きていける土地だったんだね。
 その、努力をするということが文明を生み出したんではないか、と私は思うのです。
 熱帯、亜熱帯の植生豊かな土地に生きている人々は、同じ農耕をするにも、ぼちぼちで生きていける。人々を組織して、自然に対して必死に取り組まなくてもやっていける。そういう土地では、文明は生まれなかったし、生まれる必要もなかったのでしょう。

 やがて、厳しい環境の中で生きていくために生まれた文明が、周りの地域に影響を与えはじめます。文明のあるところにはたくさんの食糧と高い技術があるわけだから、周りの民族はそれを欲しくなります。文明地域に武力で侵入する集団もある。徐々に技術が広がって文明化していく民族集団もあらわれる。いよいよ、歴史が動き始めます。

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記年法
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 記年法のことを言っておきます。
 授業ででてくる年代はみな、西暦です。イエス・キリストの生まれた年を1年として数える。今年は1999年。
 キリスト教国ではない中国でも西暦を採用していて、世界標準になっている。平成11年です、といっても外国じゃ通用しないでしょ。昭和35年生まれの人がいま何歳かなんて、われわれ日本人でも計算に手間取るよね。元号は非常に不便で、排他的な記年法だと思います。で、教科書は西暦です。みんなも自分の誕生日とか、記念日を西暦で考える癖をつけておくと、世界とのつながりの中で自分の人生を考えやすいと思うよ。グローバルな視点だね。

 世紀という言い方がありますね。
 もうすぐ20世紀が終わるけれど、21世紀は何年からですか。テレビなんかを見ていると結構間違っている。100年で1世紀です。数字は1から始まるから、1年から100年が1世紀、101年から200年が2世紀、だから20世紀は1901年から2000年までです。2001年から21世紀なんだ。来年も20世紀ですよ。歴史学的にはね。でも、あんまりこれをうるさく言うと、理屈っぽいやつだと嫌われるからほどほどにね。
 ついでに言うと、1990年代といったら、1991年から2000年までなんです。君たちは10代だけど、じゃあ、20歳になっても10代かというとこれは20代、年齢はゼロ歳から数えるからです。

 西暦1年の前の年は何年でしょうか。

 ゼロ年?

 それは、ないんです。
 ゼロをとばして、1年の前はマイナス1年とします。
 マイナス1年からは、紀元前何年という形でよびます。紀元を略して単に「前何年」ともいう。英語の略称でB.C.何年と書くことも多い。before Christ を略している表現です。
 紀元前3世紀といえば、紀元前300年から紀元前201年までです。ややこしいから、しっかり確認しておいてください。
 紀元前後の年代は、紀元前か紀元後かややこしいので、紀元後の数字にA.D.をつけることがあります。これは、ラテン語で〈神の年〉Anno Domini の略です。

 さらに、おまけの話。西暦1年がイエスの生まれた年のはずだったのですが、歴史研究が進んだら、どうも、その4・5年前に誕生していたらしいことが判ってきた。しかし、今さら変えられないのでそのままです。だから、イエスが生まれたのは前4年頃です。

(2002/2/19改稿)

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熊から王へ カイエ・ソバージュ(2) (講談社選書メチエ)
国家と王の誕生を、文化人類学的に考察した刺激的な作品。
エキサイテングな本ですが、とても高校レベルでは触れられません。中沢氏が大学で一年かけておこなった講義ですからね。意欲がある高校生はチャレンジしてみて下さい。

第3回 文明の誕生 おわり

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