時間切れ!倫理

 09 集合的無意識、元型

集合的無意識

 無意識の中にユングが発見したのが集合的無意識というものです。ユングは、無意識の中に個人的無意識以外に集合的無意識があると主張しました。

 ユングは、フロイトとの見解が分かれて関係が悪化し、非常に悩んだ時期がありました。
 その頃、ユングは無意識のうちに落書きをしていた。それが円です。プリントに載せておきました。無意識のうちに、こんな模様を描きまくっていた。そんなユングが、あるときにチベット仏教の曼荼羅を見るのです。それが自分の書いていた円とそっくりなことに驚いた。曼荼羅ってわかりますね。ユングの落書きが曼荼羅と似ているかどうか。似てる? 金剛界曼荼羅や胎蔵界曼荼羅には、たしかに円がたくさんならんでいるけれど。ユングの円はそれとはちょっと違うかな。しかし、チベット仏教の砂曼荼羅は結構ユング的です。

 話を戻します。ユングが回復期の患者に自由に絵を描かせると、やはり同じような円を描くことがあった。ここからユングは、人類全体に共通する集合的無意識というのがあるのではないかと考えた。

 また、ユングはあるときフロイトと旅行をしたことがあった。たっぷり時間があったので汽車の中で、互いの夢を話して解釈し合っていた。そのときに、フロイトにはどうしても解釈できないユングの夢があった。これも、ユングが、「やはり性ですべては解釈できない、集合的無意識があるのだ」と考えるようになったきっかけだといわれています。

 ユングは様々な神話や、いわゆる未開人の暮らしに出てくるイメージには共通のものがあって、それがすべての人の潜在意識の中に共通してあるのだという。わかりにくいし、少々神がかっている。面白い発想だけれど、それは本当かなという感じです。
 ユングはUFOも、集合的無意識だといっている。UFOも丸いでしょ。見る人の集合的無意識が、UFOを空に投影しているのだ、とユングはいう。

元型

 集合的無意識の中には基本的なイメージの型があり、その型を元型という。具体的にどんなものかというと、グレートマザー(太母)。世界共通に古代社会で地母神信仰というものがあるのですが、そのイメージ。それから、オールドワイズマン(老賢者)。これは『ハリーポッター』のダンブルドアや『指輪物語』のガンダルフを思い浮かべるといいでしょう。
 またアニマ、アニムスなどがあります。アニマは男性の無意識にある女性的な特性、アニムスはその女性版。語源はラテン語で生命・魂を表すアニマで、漫画のアニメーションもここから来ています。
 シャドウ(影)も元型です。普段自分が押さえ込んでいる自分のことです。このような元型が集合的無意識のうちにあり、これが精神のバランスをとっているという。この元型が弱まると心の病になる。

 わかりやすいように具体例をちょっと読んでみますね。夢の話を解釈しているものです。

『NHK100分de名著 河合隼雄スペシャル』より
・シャドー
 女性の夢です。「電話が鳴る。電話に出たが相手の声が小さいのでわからない。もう一度聞き返すと、小さいつぶやくような声で、「こちらは幽霊協会です」という。私が幽霊など全然信じないというと、相手は「あなたは幽霊新聞の最新号をお読みになりましたか。まあ、ともかく、あなたはとがった硬い鉛筆さえあればいいのでしょう」という。私はまったく腹を立てて、「私は幽霊も信じないし、とがった硬い鉛筆など大嫌いだ」という。相手はなおも話し続けようとするが、私は電話を切ってしまう。」
 電話の相手はシャドー。電話をかけて女性の自我に接触しようとしている。女性は理論的で感情を表に出さないタイプ。幽霊協会は不合理の象徴。「とがった硬い鉛筆」は、知性の鋭さというこの女性の武器を表わす。そして、「尖った固い鉛筆など大嫌いだ」と八つ当たりをして電話を切ってしまうことから、感情的な表現をしたいという思いが彼女の無意識にあることが分かる。合理的な思考を持つ彼女にとっての「影」は感情的になることだったのだ。
・アニマ
 こちらは男性の夢。「海に行きたくなかったが付き合いで行った。浜で海を見ていると、裸の少女が浮かんできた。少女を助けて人工呼吸をしたら息が戻ってほっとした。少女の体を温めるために、家に帰って少女に着せる服を探した。しかしたくさんある服は全て小さすぎて少女にははいらない。服を探しながら目が覚めた。」
 海は彼の無意識です。瀕死の少女は彼のアニマ。意識との接触を断たれ、無意識の海で溺れかけていたアニマを彼は助けます。彼の持っていた服はペルソナだと河合先生は判断しました。そして、ペルソナが小さすぎて彼にはアニマを包むことができないと分析したのです。
 男は男らしく、女は女らしくという価値観の中で、彼は自分の中の女性性(アニマ)が消えかけていた。彼は長い診察を通じてアニマを獲得するための努力を続け、ペルソナを確立するために相当な困難と闘い続けた。


 2021年03月19日

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