時間切れ!倫理

 100 理論家

(ウ) 理論家
 こうして見てくると、大乗仏教はガウタマ=シッダールタが説いた仏教とはかなり違う感じがしますが、考え方の基本は同じ土台の上にあるのでしょう。学者ではない一般信者向けには、永遠のブッダとか、菩薩とか、新たな設定を使って教えを説きますが、仏教哲学として、きっちりと理論づけをしています。
 その理論家がナーガールジュナです。2世紀から3世紀頃のインドの理論家です。彼の考え方のグループを中観派といいます。名前だけでいいので覚えておいてください。中国では彼の名前を龍樹(りゅうじゅ)と書きます。
 彼の思想を一言でいえば「空」の思想です。仏教はもともと縁起といって、物事は依存関係によって成り立つと説明していますが、それをもっと精緻に組み立てたのが空(くう)の理論と考えてください。物事にはもともと実体はない。有名な『般若心経』の「色即是空、空即是色」。ここに出てくる「空」です。「色(しき)」というのは実体のことです。「実体があるように見えるがそれは空である。空だと思うがそこに実体がある」と説いています。わけがわかりませんね。宗教の世界なので、悟ったら一気にパーッわかるのかもしれません。空というのは、無ではない。そこがポイントのような気がします。空と無の違いわかりますか。無というのは何もないことですが、空というのは何もないことが存在しているのかな?インド人が発明したといわれるゼロの概念と近いような気はします。
 大学1年の時、哲学科の友人を中心に、とにかく訳のわからない難しい本に挑戦するのが好きな連中が集まって、ナーガルジュナの『中論』の読書会をやりました。難しすぎて、数回で終わりました。「依存関係による生起」という言葉だけ、呪文のように覚えています。  
 ナーガルジュナには、海底の竜宮城から大乗仏教のお経を授かってきたという伝説があって、大乗仏典のいくつかはこの人が書いているのじゃないかなと、勝手に思っています。

 大乗仏教の思想家として、他には、アサンガ(無着)、ヴァスバンドゥ(世親)の兄弟もいます(4世紀?)。ナーガールジュナに比べると少しマイナーです。実在するのは心だけだという理論を作ります。これを「唯識(ゆいしき)」といいます。中身の説明はよくわからないのですが、受験的には中観と出てくればナーガールジュナ、唯識と出てきたらアサンガ、ヴァスバンドゥと答えられればよろしいです。

 2023年3月23日

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