時間切れ!倫理

 124 山本常朝

 平和な時代に武士がどうやって生きるべきかという課題は、17世紀の初め、江戸時代の初期、多くの武士たちが考えたようです。儒学とは少し離れますが、山本常朝(1659生)という人を紹介しておきたいと思います。『葉隠』という書物を書いています。その中で彼は、

「武士道というは、死ぬことと見つけたり」

といっている。有名な言葉なので聞いたことのある人もいると思います。平和な時代の武士の生き方として、山鹿素行は道徳的な指導者となれといい、山本常朝はいつ死んでもいい覚悟しておけといっている。
 面白いので『葉隠』の文章を少し紹介しておきます。なんと恋の話が出てくる。「恋の至極は忍ぶ恋と見立て候」。相手に思いを伝えずに心に秘めている恋が最高の恋だといっています。さらに「一生忍んで思い死するこそ恋の本意なれ」ともいう。胸の奥に秘めた恋を、秘め続けてそのまま死んでしまうことが一番だという。少しマゾヒスティックです。プリントには載せませんでしたが、彼はさらに、このような恋する気持ちで武士は主君に仕えなさいといっている。そして「武士道というは、死ぬことと見つけたり」となる。
 つまり、君主を思って思って恋焦がれて死んでいくのが武士道だという。「武士道というは、死ぬことと見つけたり」という文章だけを見ると、忠義のためには死もいとわない、非常に厳格な感じがするのですが、その前後を読むと少しイメージが違ってくる。極端ないい方をすると山本の武士道にはボーイズラブのニュアンスが入っている気がする。こんなことをいうと怒られるかもしれませんが。
 山本常朝の話は古学とは関係がありません。武士道の話が出たついでに紹介しました。

 2023年10月3日

次のページへ
前のページへ
目次に戻る