時間切れ!倫理

 125 伊藤仁斎

 古学の二人目は、伊藤仁斎(1627〜1705)です。京都の町人でした。商家の跡取り息子なのですが、学問に熱中してしまう。商売には関係のないことを熱心にやるので、周りの人々は学問をやめるよう勧めるのですが、やめられない。その軋轢が原因かどうかはわかりませんが、青年期からノイローゼになって、今でいう引きこもりになったようです。その後、中年を過ぎてから、塾を開いて京の人々に学問を教え始めた。
 伊藤仁斎の古学のことを「古義学」ともいいます。朱子を飛び越えて孔子や孟子の研究をするところは山鹿素行と同じです。彼の方法の独自性は、孔子や孟子の気持ちになる、ということです。例えば、論語を読んでそこからくみ取った孔子の精神で、他の文章も読むべきだと考える。『論語』『孟子』を朱子から離れて、本文に即して理解する。そして、仏教を意識しすぎたとして朱子を批判します。
 彼は儒学の一番大事な根本精神は仁と愛であると説きます。ここが特殊ですね。儒学者は大事な徳目として仁を説くのは常識的ですが、それ以外の徳目を挙げるとすれば孝とか忠とか礼になるのが一般的だと思います。愛を説く人はいなかった。ここが独特だと思います。
 彼がさらに説くのは誠です。自分や他人に対して偽りのない、純粋な心情。これが大事だという。ここには古代から続く清明心が顔をのぞかせているようです。
 また、臣下が主君に仕えるときの心がけについては、次のように言っています。

「身をわが身と思わないのは(主君に身をささげる)、妾の道である」
臣下が自分の身を思わず、自分の不満を出さず、すべて主人の思うとおりになるのであれば、君は臣の助けを得られず、一人で世の中を治めなければならなくなる。それでは国がうまく治まるはずはない。臣は君を助けるのであって、奴僕ではない。(伊藤仁斎)

 2023年10月16日

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