時間切れ!倫理

 134 蘭学

 蘭学はご存知の通りオランダの学問という意味ですね。蘭学の蘭はオランダの蘭です。実際にはオランダの学問というものはないわけで、具体的には西洋の学問を指します。
 徳川幕府は鎖国政策を取ります。キリスト教が日本に入ってくるのを非常に恐れていたので、商売と不況を切り離していたオランダだけに貿易を入れします。しかしやはりヨーロッパ人の影響を恐れて、オランダ人は長崎の出島に隔離されています。オランダ商人は出島に常駐して、何年か毎にやってくるオランダ船で、商品が運ばれ駐在員は交代していく。この出島のオランダ人を通じてじわじわとヨーロッパの学問が日本に伝わっていきました。
 ヨーロッパの書物などは初めの頃は厳しく輸入を禁止されているのですが、ヨーロッパの学問で利用価値のあるものがあると徳川幕府も考えるようになる。それは何かというと医学です。西洋医学は効果がありますよね。現在我々がかかる病院はほとんどが西洋医学です。お腹が痛くなったからといって漢方医の所に行く人はまずいない。というか漢方医がどこにいるかも分かりません。盲腸で腹痛が起きれば、手術で盲腸取ればすぐ直るわけです。東洋医学は漢方薬を何年も飲み続けて体質を改善して病を治しましょうという考え方ですから、すぐには治らない。西洋医学は有効だということは誰にでもわかる。八代将軍吉宗の時から、医学など実学的なものに関してはオランダ人のもたらす洋書も解禁されます。
 しかし日本人はオランダ語が読めない。長崎には通詞(つうじ)と呼ばれる日本人のオランダ語の通訳がいますが、彼らは日常会話ができても医学の専門書を読むことはできません。 そのオランダ語を読もうと思って頑張った人が前野良沢(1723生)と杉田玄白(1733生)です。彼らは『解体新書』という解剖学の本を日本語に翻訳します(1774)。
 二人は、オランダ語で書かれた『解体新書』を以前から手に入れていました。そこには人体解剖図があった。これが中国からもたらされた東洋医学の解剖図と全く違う。どちらが正しいのかということになる。人体を解剖すればどちらが正しいかはすぐわかります。しかし幕府の方針で人体解剖はご法度でした。  ところがある時、犯罪者の処刑があって、その遺体に限り「腑分け」と呼ばれる人体解剖が許可されます。彼らが直接解剖をすることは許されませんでしたが、刑吏が腑分けをするのを見学できた。それを見ていたら、西洋の解剖図と全く同じ。東洋医学の解剖図がめちゃくちゃなことはすぐわかった。そこで彼らは『解体新書』の翻訳に乗り出したのです。
 彼らが知っているオランダ語の単語は非常に少なかった。なので、何年もかけて、暗号解読するように翻訳をしていきます。何ページと何ページに同じ単語が出てくる。そこから共通点を探り出し、意味を類推していく作業を粘り強く続けていきました。  解体新書は医学の本なので我々が読んでも面白くはありませんが、杉田玄白の『蘭学事始』は、『解体新書』の翻訳の苦労ばなしを書いた本で、これは面白い。 これを題材にしてドラマや漫画が作られています。

 2024年1月22日

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