時間切れ!倫理

19 ギリシア神話 2

 三人の女神はこんな顔ぶれです。まずはヘラ、彼女は主神ゼウスの妻で、女神の中では一番偉い。世界の支配を司ります。次がアテナ、戦いの女神です。最後がアフロディーテ、ご存じ愛と美の女神。ローマではヴィーナスと呼ばれる。
 名誉と面子(めんつ)をかけたこの喧嘩は決着がつかず、三人はゼウスのところに行って、「誰が一番きれい?」と聞くのですが、ゼウスも困る。正直に話したら絶対に残りの二人に恨まれる。

 そこで、ゼウスは「美の判定者」を指名して、その人物に最も美しい女神を決めさせることにしました。「美の判定者」とされたのが、羊飼いの少年パリスです。これは人間。意地でも一番になりたい女神たちは、パリスのところに行って買収工作をするのです。

 ヘラは、一番にしてくれたら、「世界の支配者にしてあげる。」

 アテナは「あらゆる戦での勝利があなたのものに。」

 アフロディーテは「人間の中で一番の美女をあなたの妻に。」

 三択問題です。このあたりはギリシア人の人生観がうかがえて、最高に面白いですね。あなたなら、誰を選びますか。パリスは美女を選択した。たいていの男子生徒もこれを選びますね。世界の支配よりも、勝利よりも、美人ですよ。

 さて、最も美しい女神はアフロディーテで決着。彼女は、約束どおり最高の美女をパリスに与えるのですが、それがヘレネー。彼女はギリシアのスパルタ王メネラーオスの妻でした。パリスはアフロディーテの手引きで彼女をさらって自分の妻とします。
 ところで、のちに明かされるのですが、パリスは実はトロヤの王子でした。自分の不在中に妻をさらわれたメネラーオスは怒る。妻を取り返すため、兄のミケーネ王アガメムノーンに助力を頼みます。アガメムノーンは全ギリシアの盟主です。かれの号令で、全ギリシアの領主、殿様たちが出動、海を渡ってヘレネーを奪い返すためにトロヤに攻め込みました。これがトロヤ戦争です。

 ギリシア軍の中にはギリシア最強の戦士アキレウスもいます。アキレウスは戦争の発端となった宴会の主役女神テティスが、人間とのあいだに生んだ子です。テティスは死すべき定めにある人間の息子を不死身にするために、生まれたばかりのアキレウスを不死の泉に浸けます。その時テティスはアキレウスの足首をつかんでいたので、そこだけが不死の泉に触れず、かれの唯一の弱点となります。アキレス腱です。最後は、アキレウスはアキレス腱をパリスに射抜かれて命を落とすことになるのですが、それはのちのお話。

 このトロヤ戦争が始まって10年目、戦争の最後の10日間を、アキレウスを主人公に描いたのがホメロスの叙事詩『イリアス』です。両軍とも名だたる英雄、勇士は次々に死んでいき、それでも決着はつかず、パリスの兄であるトロヤ王の後継者、トロヤ随一の勇者ヘクトールを倒したアキレウスも、ヘクトールを倒したものは命を失うという神々の定めどおりに、パリスに足首を射貫かれて死んでしまう。

 その後トロヤを滅ぼす作戦を考えたのが、ギリシア軍一の知恵者オデュッセイウスでした。かれはかの有名な「木馬の計」をたてます。全ギリシア軍は撤退するふりをしてトロヤの海岸から引きあげて、浜辺には大きな木馬だけが残された。木馬にはギリシアの戦士が何人か隠れているのです。

 トロヤ側は今日も戦さだ、と海岸に来てみるとギリシア軍がいない、船もない。とうとうあきらめて撤退したと思いこみます。海岸に残された木馬を戦利品として、トロヤ城内に持ち込んで、夜になったら、どんちゃん騒ぎの勝利の宴会です。トロヤの兵士たちが酔いつぶれた深夜、木馬に潜んでいたギリシア兵が、内側からトロヤの城門を開き、隠れていたギリシア軍が城内になだれ込み、トロヤ人を殺しまくるのです。トロヤは炎上して滅んだという。

 『オデュッセイア』は、トロヤ滅亡後オデュセイウスが故郷へ帰りつくまでの長い旅を描いた物語。オデュッセイウスに息子の目をつぶされた海神ポセイドンの妨害によって、10年間地中海をさまよったのでした。

【参考図書】呉茂一『ギリシア神話☆〔新装版〕☆』(初版1969、新潮社)

 2021年04月17日

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