時間切れ!倫理

18 ギリシア神話 1

 ギリシア世界も最初から哲学があったわけではなく、ほかの民族と同じように、神話で世界を説明しています。どの民族も、世界の成り立ちや自分たちの起源を説明する神話を持っているものですが、ギリシア人の神話は、面白さでは群を抜いています。心理学で使われたり、映画や演劇になったり、現在でも生命力を持っている。

 神話なので、もともと口伝えで伝えられたのだと思いますが、これをまとめた人が二人います。教科書にも載っているので紹介しておきます。これは入試でも問われます。

 一人がホメロス。『イリアス』『オデュッセイア』という叙事詩を書きます。叙事詩というのは、詩の形をとった物語。ヘロドトスは『神統記』で神話をまとめました。

 とくに面白いのがホメロス。『イリアス』『オデュッセイア』はともにトロヤ戦争という神話の中の戦争を題材にした物語です。

 トロヤ戦争の話はものすごく有名。トロイの木馬というのを聞いたことがある人もいるでしょう。コンピュータウイルスの名前になっているけれど、もともとはギリシア神話トロヤ戦争のエピソード。

 資料集に古代ギリシアの神々の系譜があります。たくさんの神様が出ていますが、一番偉いのがゼウス。クロノスなどのゼウスよりも世代が上の神々は、たぶんギリシア人がバルカン半島に移動してくる前に住んでいた民族の神々です。主要民族が入れ替わった結果、神々も入れ替わったと考えられます。ゼウスの上の世代の神々はギリシア神話では事実上活躍しません。

 話を元に戻します。一番偉いゼウスの妃がヘラ。結婚の神と書かれていますが、全能の神ゼウスの妻ですから、彼女は世界を支配する力も持っています。ギリシアの神々は、人間と同じように、愛し合ったり、争ったり、嫉妬したりする。そこが面白いところです。

 全能の神ゼウスがあるとき、テティスという女神を好きになった。なんとかものにしようと(俗ないい方ですみません)していたのですが、挙動不審なので妻のヘラが疑いを持った。

 「あなた、あの娘に気があるんじゃないの」

 「とんでもない。」

 「証拠は?」

 「テティスを嫁がせよう」

 ということで、ゼウスはテティスを結婚させることにした。相手に選ばれたのが、プティーア王ペーレウスという人間の男。まだ民主政治は発展していない時代で、ギリシアには小さな国がたくさんあって、殿様がたくさんいる。ペーレウスはそんな殿様の一人です。

 女神と人間の結婚だから、披露宴は大賑わい。神々も出席するし、ギリシアの主だった殿様たちもやってくる。大いに盛り上がっているのですが、一人だけ宴会に呼ばれなかった女神がいた。これが、嫉妬と争いの女神エリスです。結婚披露宴に嫉妬と争いは要らないからね。ところが、女神エリスは披露宴に呼ばれないことに嫉妬した。腹を立てた彼女は、披露宴に争いを持ち込みます。宴会場に黄金のリンゴを投げ込んだ。突然、宴会場に転がり込んできた黄金のリンゴを取り上げてみるとそこにはこんなふうに書いてある。

 「最も美しい女神へ」

 「そのリンゴは私のものだ」と、三人の女神が名乗りをあげた。「一番美しいのは私」と三人の女神は大喧嘩をはじめてしまい、宴会は滅茶苦茶になってしまった。争いの女神を遠ざけたのに、その結果、争いが起こってしまうという、意味深い話です。ギリシア神話やギリシア悲劇独特の展開です。

---つづく

【参考図書】呉茂一『ギリシア神話☆〔新装版〕☆』(初版1969、新潮社)

 2021年04月17日

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