時間切れ!倫理

 72 キリスト教誕生の背景

 ユダヤ教から生まれたのがキリスト教です。舞台は同じくここ、パレスチナ地方です。今までイスラエル人とも呼んできたユダヤ教徒は、ここからはユダヤ人と呼びます。
 バビロン捕囚が終わった後も、ユダヤ人はごく短い期間を除いて、自分たちの国を持つことはなく他民族にずっと支配されていました。紀元前1世紀ごろにはローマの支配下にはいります(前62年保護国化、後6年ローマの直轄地化)。
 ローマから総督が派遣されてユダヤ人を支配します。ローマは征服した地域の民族から重税を取ります。苦しむユダヤ人たちの間に、ローマから解放してくれる救世主の出現を待ち望む気持ちが高まる。
 一方で、彼らの宗教であるユダヤ教はどういう状態だったか。
 ユダヤ教は苦しんでいるユダヤ人たちの救いになったかというと、その反対でした。前回も話したように、ユダヤ教は律法主義です。しかも当時主流派だったのは、パリサイ派という人々で形式的に律法を順守させ、守れないものは救済を得られないとして切って捨てていた。
 形式的とはどういうことか。例えば十戒の4番目安息日です。形式的にとらえれば安息日に働くことは絶対ダメ。もし働いたらその者は絶対救われない、救済されない。そう教えていた。
 しかし、すべての人が戒律をきっちり守るのは実は難しいのです。例えば、温かい食事を作るために、かまどに火を起こすのも労働だから駄目です。だから、温かいスープを作ったりパン焼いたりすることはできない。でも、やはり温かい食事はとりたいですよね。抜け道があります。自分は働かずに、誰かに働かせればよいのです。自分は作らなくても、誰かを雇えばよい。それができるのは裕福なユダヤ人たちです。
 では雇われるのはだれか。他の宗教を信じている人の場合もあるかもしれませんが、パレスチナ地方の話ですから、雇われるのもほとんどはユダヤ人です。安息日だろうと働いて稼がなくては生活できない貧乏なユダヤ人です。貧しいが故に、戒律を破って働らかざるを得ない人達。かれらはユダヤ教の指導者、パリサイ派からは「お前は救われない」といわれる。ローマの重税で苦しめられる上に、自らの宗教からも疎外される。絶望や不満が充満している。こういう状況のユダヤ人社会の中にイエスが登場するのです。

 2022年2月14日

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