時間切れ!倫理

 79 教父(4〜5世紀のキリスト教の理論的指導者たち)

 教父についてです。教父はキリスト教独特の用語で、ローマ帝国で活躍した4世紀から5世紀のキリスト教の理論的な指導者のことです。
 395年にローマ帝国は東西に分裂します。西ローマ帝国と東ローマ帝国です。そして西ローマ帝国は476年に滅亡します。こうなると旧西ローマ帝国領では、帝国政府の下で保護されて発展してきたキリスト教会にとって 、頼りにできる政治権力がなくなる。こういう激動の時代にキリスト教の理論をしっかりと固めていった人たちを教父といいます。何人かいるのですがアウグスティヌスは一番重要な人物です。
 彼はお金持ちの上流階級のお坊ちゃんで、お金に任せて女、酒など放蕩無頼の限りを尽くした。不良青年です。悪さをたくさんしたのですが、心の中にはぽっかりと空虚があるんですね。その空虚を埋めるために遊び倒しているのです。その頃彼が信じていた宗教がマニ教。これは西アジアで流行っていた宗教です。ただアウグスティヌスはマニ教では心が満たされなかった。その彼がキリスト教を知って改宗します。改宗してからは非常に真面目になり、神に仕えてキリスト教の理論を整えていくようになります。
 アウグスティヌスの有名な著作が二つあります。『神の国』『告白』です。ローマの町が野蛮人に占領された時に、彼は北アフリカの町でそのニュースを聞きます。そして地上の国は滅んでも神の国は滅びない、そんな形でキリスト教の理論を書いているのが『神の国』です。『告白』は自分自身の若い頃の放蕩ぶりを振り返り、キリスト教に改宗してからいかに精神のやすらぎを得たかということを書いている本です。これらの中でキリスト教の理論を書いているのです。
 彼は、何といっているか。「人の自由意志は善悪を判断できず、人を悪に導く。」人間は自由を持っている。神は人間を作った時に自由を与えた。しかし人間の自由意志は善悪を判断できない。アウグスティヌス自身が放蕩無頼の生活で悪の道に入ったことがあった。だから自分の事をいっているのですね。しかし神の教え、神の恩寵によって立ち直ることができる。 神の恩寵によって人は初めて最高善、つまり神に向かうことができる。これが神の無償の愛、カリタスといいます。
 出てきましたね、最高善。ギリシア哲学でプラトンやアリストテレスがいっていました。ローマ帝国ではギリシア哲学が流行っていた。以前にも話しましたが、ストア派が特に流行っていました。だからキリスト教の理論にギリシア哲学の用語が入ってくる。教父たちは神学理論にギリシア哲学を取り入れていると思ってください。具体的には新プラトン主義を取り入れた。新プラトン主義は名前だけで結構です。プラトンの名前がついていますがプラトンの思想とはほとんど関係はありません。ギリシア哲学の流れの最後のグループと考えたらよいです。以上がアウグスティヌスでした。

 2022年5月26日

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