時間切れ!倫理

 02 フロイト登場-自由連想・夢判断,無意識の発見

 フロイトはシャルコーのもとで学んだのち、ウィーンに帰って、自分の患者にも催眠療法を試みるのですが、うまくいかない。
 なぜか。どうもフロイトは催眠術がへただったらしい。そこで彼は自分独自の工夫をした。その結果、精神分析という臨床心理学が誕生します。

※19世紀の末に、臨床心理学とは別にドイツで実験心理学が生まれている(大学で講座が開設)。

 フロイトは催眠術の代替手段をつぎのように考えた。シャルコーが治療効果を上げているのは、催眠状態の中で患者の心の奥底を引き出しているからだ。
 ならば、催眠術を使わなくても、患者が普段は口にできない心の声を引き出すことができれば、同じ効果を上げることができるのではないか、と。

A) 自由連想・夢判断

 そこで、彼が編み出した方法が、自由連想と夢判断です。
 フロイトは患者に「自分の心の中に、ふと頭をかすめるような、通り過ぎる考えはすべて話すこと。重要ではないと思われること、病状とは関係なく無意味と思われることも何もかも話すように」約束させます。そして、患者に思い浮かぶことを話させる。また、どんな夢を見たかを話させた。

 こういう治療を通じて、フロイトは人間の心の中には、本人が決して自覚したり意識したりできない「無意識」の領域があることを発見します。
 プリントにはカタリーナという患者の例を載せています。この女性はヒステリー症状に苦しんでいたのですが、フロイトは自由連想を通じて、彼女が幼い頃に性的虐待を受けていたのではないかと推測した。そして、そのことを彼女と話すうちに、カタリーナは自分が14歳の時に性的虐待を受けたことを思い出しました。思い出すことによって、彼女の症状は改善された。

 これはどういうことか。
 性的虐待というつらい体験を思い出したくないカタリーナは、その体験を思い出さないように、記憶を無意識の世界に押し込んだ。つらくてしんどい体験が無意識の世界で暴れる。その葛藤が、神経症という身体症状として出ていたわけです。
 ですから、その体験を無意識の世界から意識の世界へひきだして、つらかったことはつらかったと自覚して、前向きに生きていく決意をすることで病状は改善したのです。

B) 無意識の発見

 フロイトはこのように精神の病の原因を解釈し、無意識を心の学問の主役にしました。くりかえしますが、「無意識」の世界にかかえこんだ葛藤のエネルギーが外に出ようとするときに症状がでる、ということです。

 ここからフロイトは心の局所論モデルという理論を作ります。心は三つの層に分かれている。無意識−前意識−意識、です。
 意識とは、われわれが自覚しているいわゆる意識です。無意識は、本人には決して自覚できない領域です。夢は無意識ではありません。無意識は真っ黒な沼のようなもので、その中をのぞき見ることはできない。自由連想で出てくる言葉や夢は、沼の底から水面にポコリと浮かんでくる泡のようなものです。それが前意識と考えてください。水面に目をこらしてよく見れば、見えてくる細かい泡つぶ。それが前意識。

 無意識は本人には決して自覚できませんが、自由連想や夢の話にヒントがある。訓練を受けた精神科医が注意深く聞いていけば、患者の無意識の葛藤がわかるわけです。
 前意識に現れる泡のようなものは、夢だけではありません。フロイトの『精神分析学入門I (中公クラシックス)』を読むと、最初に、「しくじり行為」に触れています。ちょっとした言い間違い、書き間違い、物忘れです。例えば、誰かと約束の時間に遅れてしまった、または約束の曜日を間違えた。単なる失敗の場合もあるけれど、無意識に根を持つ心的行為である可能性がある。本人は自覚していないけれど、話しながら鼻に触ったり、肘に触ったり、貧乏揺すりをしたりとか、何かの折に鼻歌を歌っていたり。精神分析医は、それは何の歌か?みたいなところから、無意識を探っていったりするようです。
 例えば、私は自分宛に来た封書を開封するのが嫌です。できるだけ開封せずに、放置している。封を開けるのに葛藤があるのを感じます。その原因はわかりません。無意識の世界に、なにか思い出せない心の傷がとぐろを巻いているのかなといつも思います。

 フロイトは、以上のような考えで患者の治療に当たるのですが、そうすると性的虐待を受けたことを思い出す患者がどんどん出てきました。あまり多いので、フロイトは「これは、本当だろうか?」と思った。
 これは微妙な話です。親からの性的虐待の話がようやくオープンになりつつあるのが、現在の21世紀です。しかも現代でも、その本当の件数なんかわからない。100年前のフロイトが、信じがたかったのもわからないではない。100年前のウィーンで、フロイトはその数の多さから、「本当は虐待されていないけれど、本人が虐待されたと信じているのだ」というふうに考えるようになります。

※『魂の殺人 新装版』(A・ミラー、新曜社)のミラーは、子どもが親から虐待される記憶を何のために捏造するのかと、つまり本当に性的虐待が多数あったのだという。ミラーによれば、フロイトは事実を封じ込め、性的虐待に対する社会的関心や取り組みを遅らせてしまったとんでもない人物ということになる。

 2021年03月19日

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