時間切れ!倫理

 03 性欲の発見

 また、フロイトは治療を続けるなかで、性的虐待などの「心の傷」、いわゆるトラウマが見つからない患者がいることにも気がつきます。「心の傷」でなければ、何が無意識に葛藤をもたらしているのか?それは「意識したくない願望や衝動」ではないか。誰もがもっていながら、無意識の領域に押さえ込んでいる欲望、これをフロイトは「欲動」と呼びますが、この「欲動」が原因ではないかと考えた。では、押さえ込んでいる、意識したくない願望や衝動とは何か。それは性欲だ!ということで、プリントには「性欲」の発見、と書きました。性欲は意識したくない願望なのか、と思う人がいるかも知れません。現代は、性に関してもタブーがなくなりつつある。しかし、フロイトが活躍したのは、19世紀末から20世紀初めのウィーンです。しかも、彼の患者は上流階級の婦人が多かった。女性には性欲はないと思われていた時代です。女性、しかも上流階級の女性たちが感じる抑圧、特に性的な抑圧は今では想像できないくらい強かったのではないか。そういう欲望を抑え込み、身体に症状が出る。十分に考えられることですよね。

 しかしフロイトがすごいのは、こういう常識的な解釈をはるかに超えてしまった点です。かれは性欲理論をどんどん発展させていって、ついには幼児にも性欲はあるという。性欲の発展段階理論も考えた。「性格と肛門愛」というフロイトの論文がある。肛門愛って!?と思うでしょ。ぶっ飛んでるよね。
 赤ちゃんが母親のおっぱいと吸っている時期には、唇に性欲を感じている。これが口唇期。次に、うんちをコントロールできるようになると、肛門に性欲を感じる。これが肛門期。やがて、おちんちんに興味を持つ男根期。男根期は女子にもあって、女の子はおちんちんがないことに気がつき、深く傷つく。やがて、大人になって性器期となるという具合です。説明しながら恥ずかしい。

※岸田秀によれば、性欲を性器に固定せず、最終的に性器によって統合されるというのがフロイトの理論。それ以前の状態は、倒錯である。性欲の発展段階の途中のどこかで挫折すると、性的倒錯になるという含みがありそうだ。岸田秀『ものぐさ精神分析 (中公文庫)

 さらにフロイトは、「すべての男の子は自分の母親とセックスをしたいと思っているのだ」という。そのためには父親は邪魔で、父親を殺したいと思っているのだと。これが有名な、オイデップス・コンプレックスです。オイデップス・コンプレックスは女子にもあるとフロイトはいう。

 ええっ!と思いますよね。「そんなこと、考えたことまったくない。嘘だ!」と思う男子も多いと思う。考えたことがないのは当たり前。だって、無意識の世界のことだから。絶対自覚できない。でも、精神分析家のフロイト先生にはお見通しなんです。そう言われたら、反論のしようがありません。

 このような性欲を中心とした「欲動」を無意識の世界に押さえ込んでいるが故に精神を病むのだ、というのです。これが、いわゆる性欲の発見です。

 2021年03月19日

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