時間切れ!倫理

 06 フロイトの治療法

 では、どうやって病を治すのか。板挟みにあって苦しんでいる自我を強くするのです。フロイトは病の原因である患者の葛藤の原因を解釈して、患者本人に告げる。患者はそれを受け止める。原因を告げられて、それに耐えられるように自我を鍛えて病気を治すのです。治療法は「自我を鍛える」ことです。

 フロイト先生はいう。あなたにとって封筒を開ける行為は、父親の喉を掻き切るイメージなのです。封筒を開けられないのは、そのことを恐れているからです、と(「2 フロイト登場」参照) 。わたしがそう診断されて、「そうか、僕は父を殺したかったんだ。でも、実際にはそんなことをしないのだし、封筒を開けることなんか平気だ」と考える。そして、原因がわかったので、意志を強く持って封筒をあけることができるようになれば、治療成功です。

 実際に、これで多くの患者の治療に実績をあげて、各地からフロイトのもとに精神科医が集まってきて、のちの精神医学、心理学の大きな源流になりました。

 根本的な疑問です。フロイトは「心の傷」だ、「欲動」だ、性欲だというけれど、これは本当でしょうか。オイデップス・コンプレックスは誰もが持っているのでしょうか。こころは「エス−自我−超自我」に分かれているのでしょうか。無意識はあるのでしょうか。

 それは、誰にもわかりません。そんなものはフロイトのでっち上げだと考えている学者も、たくさんいると思います。ただし、強調しておきたいのは、フロイトの出発点は臨床、つまり患者を治療することです。一番の目的は患者の病気を治すことなのです。

※橋本治は『蓮と刀―どうして男は“男”をこわがるのか? (河出文庫)』(1986)においてオイデップス・コンプレックスを真っ向から否定している。母親と寝たいなどと思う男はいない、と。なのに、我々男どもがオイデップス・コンプレックス説を受け入れてしまうのはなぜか。男は、彼女(恋人)に甘えるときに、母親に甘えるのと同じような態度になる。だから、オイデップス・コンプレックスをもちだされると、「あれっ、そうなのかな」と思ってしまう。
 男は女性に接するとき、母親に甘えた体験しかないから、それをなぞってしまうだけなのだ、というのが橋本治の見解。結構意訳してるかもしれませんが、そんな風に書いていた。

 かれは、患者の治療を通じて、心の構造を理論化して、それに基づいて治療をした。その結果、患者が治癒した。理論が真理かどうかではなく、病気が治ることが最大の目的です。極端にいえば、治りさえすれば、どんな理論でも良いわけです。例えば、なんだかわからないけれど、こうしたらガンが治りました、という医者がいたとする。治療法はまったく常識外れで医学的にも滅茶苦茶なのだけれど、本当にどんどんガン患者が回復すれば、皆が一目置くようになるし、理論も注目されるはずです。そんなふうに考えてもらったらよいかなと思う。

 まとめておきます。フロイトの功績。精神分析の創始者。ある意味、臨床心理学の創始者といってもよい。そして、無意識と性欲を発見し、心の病を理論化しました。

 2021年03月19日

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