時間切れ!倫理

 07 ユング

 いったん心の構造が理論化されれば、後に続く人たちはこれを土台にして改良を加えていけばよい。フロイトにつづいて、様々な精神構造の理論が登場します。その中で有名なのが、ユング(1875〜1961)です。ユングは日本では人気がある。もう亡くなってしまいましたが河合隼雄(かわいはやお)という心理学者がいて、スイスに留学してユング派精神分析を日本に紹介した。この人の本がすごく面白くて、それでユングが日本で広まった。本屋に行っても、河合さんの本は今でもたくさんあると思います。

 ユングはフロイトより20歳ほど年下。スイスの精神科医でしたが、やがてウィーンのフロイトのもとに行き、弟子になる。弟子であり、共同研究者という感じかな。ユングの説の一部は、フロイトも自説に取り入れているほどです。フロイトはユングを自分の後継者だと考えていました。ところが、ユングはだんだんと、フロイトの考え方に違和感を持つようになります。無意識の理論という点では同じなのですが、フロイトが性欲を重視しすぎるのではないかと考えます。

 ちなみに、精神分析家の理論は、その人のパーソナリティと切っても切れない関係がある。フロイトは非常にまじめな人でした。厳格な父親に育てられ、大人になってからも父親を恐れていたようです。だから、エディプス・コンプレックスという考えを持つに至ったともいわれます。性的な面でも、堅物。結婚はしていますが、浮気なんか絶対にしないタイプ。彼自身が自分の大きな性的欲望を理性の力で頑張って抑えていたのではないか。だから、欲動の理論に性欲を据えた。

 ところが、ユングという人は、性的な抑圧があまりない感じです。女性関係も、まあ、緩んでいるというか、患者の女性と肉体関係を持つこともあった。奥さん公認の愛人がいて、奥さんと愛人を同じ家に住まわせていたこともある。ゆるゆるです。だから、性の欲望がエスを突き動かしているとか、潜在意識の大きな問題だ、などとは考えなかった。

 2021年03月19日

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