時間切れ!倫理

17 ギリシアの風土と古代ギリシア人の暮らし

 さて、いよいよ古代ギリシアの思想に入りましょう。世界で最初に哲学という学問を生み出したのは、古代ギリシア人です。まず、かれらがどんな生活をしていたのか。そこから見ていきたいと思います。

 古代ギリシア文明があらわれるのは紀元前8世紀頃です。この文明が非常に重要なのは、哲学だけでなく、現在につながる様々な文化を生みだしたからです。たとえば、彼らが生み出した神話、いわゆるギリシア神話はとてつもなく面白い。フロイトのところで、オイデップス・コンプレックスの話をしましたが、オイデップス神話もギリシア神話の一部でしたね。なにか人間の魂というか、感性の奥底に触れるものをギリシア神話は持っているようです。
 さらに彼らは民主主義を生んだ。古代ギリシア文明の最盛期には民主政治が発展します。われわれの民主主義の原点は古代ギリシアにある。こう考えると、現代も生命力を失わない様々な文化を生み出していることがわかる。

 古代ギリシアは小さな都市国家、ポリスが分立していた。代表的なポリスがアテネです。現在のアテネの写真が資料集に載っていますね。
 ギリシアのポリスはたがいに戦争ばかりしていたので、ポリスの周囲は城壁で囲まれていました。城壁の内側が市街地。だいたい、どのポリスでもその中心にアクロポリスとよばれる小高い丘があって、そこに市民たちの信仰する神様が祭られていた。アテネの場合はアテナ神をまつるパルテノン神殿がありました。その遺跡は今でも残っている。
 ここは、単なる神殿ではなく、戦争で城壁が破られて敵軍が市街地に進入してきたときに、市民たちが最後に立てこもる要塞も兼ねていました。このアクロポリスがポリスの中心。そして、そのふもとにはアゴラと呼ばれる広場があります。ここが政治の中心となる。ポリスの市民たちは暇があればここに集まっておしゃべりをしたり、体を鍛え、軍事訓練をしたりする。その周りに市民の住宅があり、その外延部には城壁。城壁の外に農地があります。
 ポリスの領域は大きいものでも日本の県くらいです。ほとんどはもっと小さい。人口は7000人くらいが普通だったらしい(アテネは例外的に人口20万を数える巨大ポリスでした)。こういうポリスがたくさんあった。ひとつひとつが独立国です。

 市民たちはアゴラ、つまり広場に集まっては、政治のことなどを話しあい民主主義が発展したのですが、なぜそんなことができたかというと、古代ギリシアは奴隷制社会。だいたいの市民は奴隷を持っていて、かれらに畑仕事をやらせていた。また、アテネの場合は鉱山を所有しており、そこでも奴隷が働かされていた。
 市民は、はっきりいって暇。暇だから、文化が発達した。星空を見て星座を考え、神話の物語から人生を振り返り、そして哲学が生まれ、民主政治が発展したのです。

 また、ポリス間でしょっちゅう戦争をしていたので、お金を持っている市民は、自腹で武器をそろえて、ポリスを守るために喜んで重装歩兵として戦争に行きました。ポリスのために戦うことは名誉なことだったのです。だから、哲学者もみんな戦士でした。哲学だけでなく、体も鍛えている。
 有名なソクラテスも、3回は戦場に出ています。プラトンはレスリングの選手だった。プラトンというのは「肩幅の広いやつ」というあだ名。みんな賢いだけでなく、強い。

 アテネの写真を見ても分かるように、ギリシアというのは山が多い。大きな平野はあまりありません。地中海性気候で夏に雨があまり降らないから穀物生産には向かない。何をつくっているかというと、ブドウやオリーブ。そして、葡萄酒やオリーブオイルをエジプトなどの海外に持っていって穀物と代えてくるわけです。ですから早い時期からギリシア人は海上貿易を盛んにおこなっていました。プラトンも果樹園を持っていて収入源はエジプトとの貿易だったらしいです。

 貿易で儲けて豊かになってくると人口も増える。ところがギリシアは狭いので人が増えても住むところがない。そこで、ギリシア人は海外に移住、植民して、本国と同じようなポリス、都市をどんどん作っていきました。黒海沿岸や、イタリア半島、シチリア島等にどんどん植民していきます。資料集、教科書ともに同じような地図が載っています。哲学者たちの出身地を示していますが、この地名はみんなポリスです。イタリア半島やシチリア島から現在のトルコにまでギリシア人の世界が広がっているのがわかります。

 つまり、かれらは貿易でエジプトやシリアにも行くし、地中海沿岸のさまざまな土地に町を建設して、さまざまな民族と接触があったということです。

 様々な文化に刺激を受けるし、自分たちの文化を客観的にみるようになる。おまけに基本的に暇で、考える時間はたくさんある。そういう条件の中で、世界最初の哲学がうまれたのだと思います。とくに、西アジアの大帝国ペルシアやエジプト文化の影響は大きかったと思います。

【参考図書】浅野典夫『「なぜ?」がわかる世界史 前近代(古代〜宗教改革)

 2021年04月10日

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