時間切れ!倫理

 186 ヘーゲル その3

B絶対精神
 ヘーゲルは、世界はこのような、自我・精神が発展していく過程だと考えます。彼は、この精神のことを絶対精神と名付けます。「それはなんだ、どこにあるのか」と言われてもわかりません。
 それは、ヘーゲルが考えた世界の根本のようなものです。神と言ってもいいかもしれないのだけれども、この時代になると、もう神という言葉は使うことがないです。
 この時代は啓蒙思想の時代です。フランスではフランス革命が起こって自由・平等・友愛の国ができる。ヘーゲルはドイツ人です。ドイツにはまだフランス革命のような市民の自由はないのですが、ヘーゲルは自由の実現にすごく憧れています。そこでヘーゲルは絶対精神は自由の実現に向けて発展していくと考えます。ヘーゲルは絶対精神のことを世界精神と考えます。
 ヘーゲルは絶対精神によって世界史を解釈しています。
 アジアや古代エジプトなどの国々では、一人の王様だけが自由。一般の人民は奴隷状態である。エジプトのピラミッドなどを見て、そう考えたのでしょうね。ファラオだけが自由で、国民は皆奴隷だと。実際は違うのだけれどもそう考えた。この段階では自由はほんの少ししかない。
 次の段階が古代ギリシア・ローマの世界。古代ギリシアでは市民、古代ローマでは貴族がいて、その数は少ないながら、彼らは自由を持っている。一人しか自由でなかったアジア・エジプトよりは、自由を持っている人が増えるのです。貴族・市民は自由を持っている。けれどもそれ以外は奴隷です。
 次は中世ヨーロッパ。封建諸侯たちがいる。彼らは少数だが自由を持っている。これに対して農奴がいる。農奴は奴隷ではないので少し自由を持っている。古代ギリシア・ローマに比べて自由の度合いが少し増えています。
 このように、徐々に自由が発展していくのだと考える。これは絶対精神が自由を拡大していく過程、世界は絶対精神が発展していく過程だと考える。
 次の段階に行くと、フランス革命のような市民革命が起こり、国民が皆自由な社会が生まれる。ヘーゲルはこの時代の人なので、彼にとってこの市民社会が歴史の終点です。  このようにして絶対精神は自由を完成した。やがてフランス革命からナポレオンが登場する。ナポレオンはヨーロッパ各国を征服するのですが、同時に征服地に革命の自由の旗を掲げます。ナポレオンが支配した地域では封建貴族が追放され、民衆に自由が与えられます。
 ヘーゲルが住んでいたドイツも、ナポレオンによって征服され、封建勢力が権力を奪われ、民衆に自由が訪れます。これが絶対精神の完成形。ヘーゲルは自由を実現しようとする絶対精神が、ナポレオンの姿をとって現れているのだ、というようなことを言っています。
 あくまでも主役は絶対精神であり、人間は絶対精神が自己実現をするための駒です。プリントにある「絶対精神は世界史を通じて完成に向かう」とはそういうことです。
 「世界史は自由の意識の進歩である」。フランス革命は「絶対精神が個人の情熱を利用しながら究極的な自由を目指して展開する実例」。「絶対精神は人間を自己実現の道具として操る」。つまり絶対精神が人間を駒として操ることを、ヘーゲルは「理性の狡知」「理性の詭計」という言い方で表現しています。
 次はヘーゲルの有名な言葉なので知っておいてください。

  「理性的であるものこそ現実的であり、現実的であるものこそ理性的である」。

 絶対精神が自分を実現するために、世界の歴史は発展していきます。様々な社会制度や政治制度が実現しているのは、それが合理的だったからです。古代エジプトでファラオ一人が自由で他の人々が奴隷だったのは、それが当時合理的だったからです。それが合理的ではなくなった時点で次の段階に進みます。
 ヘーゲルは、すべてこの世の中にあるものは合理的だと考えます。合理的でなければ、そのようなシステムはもたない、崩れ去るはずだからです。これはある意味理解は出来るのですが、例えば独裁者が10年20年独裁政治を続けている時に、「俺の独裁政治がこれだけ続いているのは合理的だから続いているのだ、これがこの社会の理性にかなっているのだ」という自己弁護にも使えます。 そういう意味でヘーゲルの考えは保守的な思想にも近いところがあり、様々な評価があります。

 絶対精神の話は、今の我々にとっては「ふーん、そんなことを考えていたんだ。こんなものを真面目に考えるなんて、変なの!」なのです。実際に絶対精神は、存在証明ができない神の言い換えともとれる。完全な観念論で、反論のしようがない点で、宗教に近い。
 ただ、歴史的には、こののちかれの思想に大きな影響を受けたヘーゲル左派とよばれる人々が、観念論だった絶対精神を唯物論的に読み替えていきます。その流れから出てきた最大の思想家が、マルクスです。奴隷制、封建制、資本制(資本主義)と発展していくというマルクスの唯物史観の理論は、ヘーゲルから受け継いだものでした。

2025年7月2日

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