時間切れ!倫理

 187 ロバート・オーウェン、サン・シモン、フーリエ

 世界全体を説明しようとする哲学はヘーゲルが最後です。後は個別の課題に取り組むような思想の紹介になってきます。少し理解しやすくなるかと思います。まず社会主義思想についてです。
 ちょうどヘーゲルの生きた時代くらいからイギリスで産業革命が始まります。
 最初に綿織物工業が発展し、工場がどんどんとできる。機械で生産すると同じ品質の商品が大量生産できる。安く作ることができるので、イギリスはこれを世界中に販売して儲けるようになる。こんな風にして資本主義経済が始まります。農業中心だった社会が工業中心に変化する。
 イギリスで産業革命が始まったばかりの頃は、労働者を保護するような制度や法律は何もないので、労働者は悲惨な状態に置かれました。低賃金、非人道的な取り扱い、現在のような8時間労働制という法律もないので、12時間、14時間、18時間働かせても何も罰則はない。同じ給料で出来るだけ長く働かせた方が工場経営者は儲かるので、長時間労働が盛んに行われました。
 単純労働ならば大人でなく子供でもできるので、幼い子供を雇って長時間働かせる。7歳8歳の子供を雇って働かせるようなこともイギリスでは起きます 。八歳ぐらいから綿織物工場で働いていると、綿ほこりをたくさん吸って大人になる前に肺の病気になって死んでいきます。さすがにこれは問題になる。こういう労働者の悲惨な状態を改めていこうという思想が生まれてきます。これが社会主義思想。
 つまり、労働者がひどい状況に陥っているこの社会を、何とかしようとする思想が社会主義思想です。資本主義から社会を守るという意味で社会主義という名前が付けられたようです。
 最初に出てくるのが空想的社会主義と呼ばれる考え方です。3人紹介します。
 一番目がロバート=オーウェン。「政治・経済」の教科書でも「世界史」の教科書でも出てくる人物です。イギリス人。自分自身で工場を経営しています。経営者ながら、自分の工場で働いている労働者の生活の向上を考えます。普通の工場経営者は少しでも自分の儲けを多くするために、長時間労働や低賃金労働で労働者を働かせるのですが、彼は自分の工場の労働者の条件をうんと良くするのです。
 親が工場に働きに来ると子供達はほったらかしになるので、自分の工場の敷地の中に社宅を作る。当時は都市に労働者がどんどんと流入することによって、 スラム街が生まれ、労働者は8畳ひとまぐらいの小さい部屋に3家族が同居するような劣悪な住環境にありました。
 ところがオーウェンはちゃんとした社宅を作ってそこに労働者を住まわせる。そして小さい子供が両親が働いてる間、一人ぼっちにならないように、やはり工場の敷地の中に幼稚園を作る。多分これが世界初めての幼稚園です。給料を高めにしたり社宅を作ったり幼稚園を作れば、経費は余分にかかります。その分を製品の価格に転嫁しなければならないから、他の工場との競争に負けると、みんなは思った。工場経営者の仲間たちはオーウェンのこの試みを疑問を持って見守っているのですが、オーウェンはその分、労務管理をきっちりする。一方で、彼の工場の労働者たちはモチベーションが上がって、やる気を出して働くので、生産性が上がって彼の経営は成功しました。労働者の福利厚生と経営を両立させたことで彼の工場は評判になり、イギリス中から見学者が訪れる程になりました。  しかしやがてダメになる。やはり経費が余分にかかることが問題でした。初めは感激して一生懸命働いていた労働者達も、その労働条件が日常になってしまえば、他の工場の労働者たちと生産性は変わらなくなってしまう。その結果経費がかかる部分だけ儲けが落ちて工場が潰れてしまった。
 オーエンはイギリスのような競争の激しいところで経営するから失敗するのだと考えて、アメリカに渡りニューハーモニーという共同体を作りながら工場経営をするのですが、アメリカであろうとも、資本主義の競争原理は貫いているのでやはり失敗しました。このように最終的には失敗するようですが、工場経営から手を引いた後も、労働者の権利を守るための工場法の制定に活躍しました。
 最終的には、彼の考え方で労働者の 状態を改善することは不可能だったので、マルクス、エンゲルスからは空想的社会主義と呼ばれることになります。
 2人目はサン=シモン。フランス人です。この人は産業主義という言葉とセットで覚えてください。彼は生産に携わる人を産業者と呼びます。工場経営者だけでなく労働者も産業者に含めます。産業者が政府の権力を握るべきだとサン=シモンはいう。そうすれば労働者がしんどくない社会が作られると考えました。「資本家と労働者はエゴを捨てて愛し合うべき」と書いてあるでしょう。普通に考えて資本家と労働者が愛し合うなんて、無理ですよね。空想的と呼ばれる所以です。
 3人目はフーリエ。彼もフランス人です。農業を基調とする共同体建設を唱えました。工場経営者は利益のために労働者を搾取しなければならない。ならば労働者が工場を経営すればいい。自分で経営すれば搾取はない。ならばみんなでお金を出し合って共同体を作ってみんなで工場を経営したらいいのではないか、という発想です。これが可能かというと、難しい。農業共同体建設の試みは、実際に多くの実践例があります。ただ長期間に渡って成功したという例はあまり聞いたことがありません。これが工場の共同経営のようなものだとさらに聞いたことがない。(生活協同組合というものは、消費者の共同体をつくろという発想ですね。)

2025年7月8 日

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