アダム=スミス
前回、功利主義は民主主義と非常に相性がいいという話をしました。ちょうど同じ時期に資本主義も発展してきます。功利主義と関連して、現代の問題として資本主義と社会的正義の話が教科書に載っていますので、そこを解説しておきます。
アダム=スミスはイギリスの経済学者です。現在につながる経済学の最初の人。古典派経済学といわれる経済学を作った人です。イギリスで資本主義が発展してくる最初期に経済の研究をしました。
以前に出てきたマルクス主義経済学のマルクスは、アダム=スミスの経済学から多くのものを取り入れています。マルクスは資本主義が発展するに従って、労働者の暮らしが悪くなっていく、窮乏化と疎外が進むと考えて、社会主義をめざす考えに至りました。
しかしアダム=スミスの頃は、資本主義社会の矛盾はマルクスの時代ほどはっきりしていませんでした。労働者の暮らしはひどくなりつつあったのですが、アダム=スミスはそこまでは見えていません。それよりも、資本主義によって経済がどんどん発展しているという点に着目します。
資本主義になると貧富の差は拡大するのですが、 アダム=スミスは、最も貧しい人々でも資本主義以前の段階よりも少し豊かになっている、資本主義によって格差は開くかもしれないけれども、資本主義によって全体が底上げされていくと考えます。したがって、貧しさにあまり注目しません。資本主義によって経済発展することを大いに肯定している立場です。
また、J.S.ミルと同じように、自由が大事という発想をします。企業が自由に競争することによって、経済がどんどん発展する。最も貧しい人でも、徐々にその生活は向上していく。自由な競争万歳、です。したがって、自由な競争に対して政府が様々な規制、制限をかけることは良くないことだと考えます。これが自由放任主義です。企業の自由な活動は好きにやらせればよい。政府は余計なことをするな。利益を追求する個人の自由な経済活動が社会全体を豊かにする。経済活動に対する政府の不当な介入を否定する。
現代のリバタリアニズムのノージックの源流思想と考えてもいい。「神の見えざる手」という有名なアダム=スミスの言葉は、聞いたことがあると思います。政府が手を出さなくても、経済は自然にうまくいくという発想です。
ただし、競争する時にずるいことをしては駄目だといいます。「フェアプレーの精神」というのがそれです。自由競争は「公平な観察者」、どの立場にも立たない人から見ても公正であるようにやらなければだめです。
では、なぜ人は公正に振る舞うことができるのか。アダム=スミスはその根拠に「道徳感情」を持ってきます。人間は公正に振る舞うはずだ、道徳感情がある、だから自由に競争して良いのだということでしょう。アダム=スミスの発想の根本には性善説があると思います。
現実には、政府が様々な法律や制度によって、資本主義の経済に規制を加えることがあるのですが 、基本的にはアダム=スミス的な考え方は資本主義社会の底流にあります。問題はそれから200年後、現在の資本主義社会はどうなっているかということです。
資本主義社会の現状
現代、21世紀の資本主義経済の下で格差はどうなっているのか。資本主義の歴史の中で、格差は拡大したり縮小したりしますが、多分現在の世界は歴史上最も格差が激しく開いている時代だと思います。日本は第二次世界対戦後、世界でも稀に見るほど格差の小さい社会でしたが、その日本でも1990年代以降格差はどんどんと開いている。
プリントを見てみてください。格差の例をいくつか載せておきました。世界の?富豪上位8?の資産が、下位半分36億?の富に相当する。すごいことですね。ベゾス氏(Amazon.com社長)の総資産のわずか1%が、人口1億500万人のエチオピアの保健医療予算全額に匹敵。ものすごくたくさんの人を救えるだけの財産を持っているわけですね。コロナで皆が家にこもって通信販売で物を買うようになったので、 Amazon の売り上げはものすごく伸びた。コロナ以降、ベゾス氏の資産は月10億のペースで増加している。ところがアメリカのアマゾンの倉庫、基本的に Amazon は商品を配送するだけですからほとんどの従業員は倉庫で働いている、その従業員の2万人がコロナに感染した。「どういうこと?」と思いますね。2万人がコロナに感染するような環境で働かされ、一方、自分の財産はものすごい勢いで増加している。格差の拡大というよりは、労働者の犠牲の上で財産を積み上げている。
また、上位1%の富裕層が今後10年間、税?を0.5%多く払えば、介護や教育などの分野で1億1700万?を新たに雇うことができるという。
アダム=スミスは資本主義はどんどん経済発展をもたらすと同時に、最も貧しい者も豊かになる、状況が良くなると考えていましたが、現在の格差はどんどん広がり、最底辺の人々はコロナにかかってヘタをすれば死んでいく。命を失うとは最も悲惨な状況でしょう。こんな風に、格差の拡大は21世紀になってからものすごくはっきりしてきました。