時間切れ!倫理

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 良い意味でも悪い意味でも、世界の最先端を走っているのはアメリカなので、アメリカでは20世紀の後半からこの激しい格差が問題になっていました。
 格差の存在は許されるのか。このようなことを倫理学は問題にし始めます。その代表的な学者で、現在も論争になっている問題を提起したのがアメリカのロールズ(1921年生まれ)です。代表作が『正義論』です。
 彼は「原初状態」、「無知のヴェール」という考え方から現代の正義について考えました。
 例え話で説明しましょう。5階建てのマンションがある。エレベーターが壊れたので、修繕することにした。管理会社は何千万円かかかる修繕費用を全ての住民に均等割に負担することを提案します。これに対して一階の住人が「ちょっと待ってくれ。我々はエレベーターを使わない。なのになぜ修繕費用を負担しなければいけないのか?」と異議を申し立てた。1階の住人は、エレベーターを使う頻度に応じて、修繕費用を上の階になるほど多く負担する対案を提出した。
 これに対して腹を立てるのは5階の住民ですね。「1階の住人だって5階の住人を訪ねてくる時はエレベーターに乗るだろ」。 怒った5階の住民は、2、3、4階の住民を説得し、修繕費用は全て1階の住民が支払うという案を提出した。管理組合の総会を開いて多数決を取れば、2階から5階までの住民がこの案を支持して、1階住民が全ての費用を払う案が通りますね。「最大多数の最大幸福」で考えればこの結果が悪いとはいえない。それでも常識的に考えてこの案はおかしいですよね。
 現代の資本主義社会はどうなっているかというと、1階の住民が出した案のようになっているかもしれないし、5階の住民の案のようになっているかもしれない。どちらかわからないけれども、この世界は何か公平ではない感じがします。このマンションの話とすごく似ています。
 こういう事にならないように解決するにはどうしたらよいのか。
 現実にはあり得ないのですが、思考実験として、マンションの住民が、自分は何階に住んでいるのか知らないとする。自分が何階に住んでいるのか、分からないまま、全員で話し合ったらどんな案になるだろうか、と考えてみます。それが誰にとっても最も納得できる案ではないだろうかと。
 これがロールズの考えた「無知のヴェール」です。社会全体のルールがまだ決まっていない状態=「原初状態」を想定したうえで、社会の構成員皆に「無知のヴェール」を被せる。つまり、自分が社会全体の中で、どのようなポジションにいるか知らないと想定する。
 自分が金持ちなのか、貧乏人なのか自分で分からない状態。自分は民族的マイノリティかもしれない。障害を持っているかもしれない。男か女かもわからない。親がいるかどうか、兄弟がいるかどうかも分からない。都会に住んでいるのか、田舎に住んでいるのかもわからない。サラリーマンかもしれないし、農業をしているかもしれない。大学教授かもしれないし、ホームレスかもしれない。自分が何者かわからないように「無知のヴェール」をつけた状態で、社会全体のルールを考えてみたら、どんなルールを考えるだろうか。そういう思考実験です。
 原初状態から社会のルールを作る時に、自分の立場が分からなければ、どんな立場になっても極端な不利益を被ったりしないようなルールを考えるはずです。「無知のヴェール」を外してみたら自分が重い障害を持っているかもしれないと想定すれば、障害者を社会の端に追いやるような制度は作りたくないでしょう。自分が女性かもしれないと考えれば、女性が不利になる社会は作りません。こんな風にしてどんなルールが出来上がるかを考えてみた。

2025年11月26日

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