時間切れ!倫理

 33 プラトンと国家・民主主義、魂の三部分説と四元徳

 実はソクラテスも民主政治を批判するようなことをいっています。

 「あなたが家を建てるときどんな大工に仕事を頼むか?大工を集めてくじを引かせてあたった大工に頼むか、それとも最も腕の良い大工に頼むか?」「腕の良い大工に頼むであろう。ならばなぜ、われわれアテネ人は政治をおこなう者をくじで選ぶのか。」

 なかなか辛らつな批判ですね。当時のアテネの人々は民主政治に絶大な自信と誇りを持っていましたから、こんな発言はやっぱり許しがたいモノだったのではないかな。ソクラテスが死刑になった原因にはこんな発言があったのかもしれないね。

 プラトンは政治の本も書いています。『国家』といいます。

 プラトンは民主政治が嫌いです。かれの敬愛するソクラテス先生はなぜ死刑になったのですか。陪審員になった市民たちによって死刑判決をうけた。市民たちは何の資格で陪審員となったか。くじであたったからです。しかも、陪審員は政府から日当が支払われた。たまたまくじにあたって、日当めあてで裁判に参加した市民たちに、ソクラテス先生の思想が理解できるのか。ソクラテス先生を裁く権利があるのか。これが、プラトンの発想です。

 だから民主政治は嫌いです。

 どういう政治を理想としていたかというと、哲人が王となることです。 プラトンはエジプトを旅行して感激している。エジプト人は、王、ファラオを神の化身としてあがめる伝統がある。それを見て感激するんですよ。すばらしい、と。アテネの議論ばっかり、文句ばっかりの連中よりよっぽど良い。こういう国民を哲人王が支配すれば、国民は王のいうことをよくきいてすばらしい国になるに違いないと考えた(哲人政治)。

様々なイデアの最高峰である最高善のイデアを取得した人間が哲人である。ソクラテスと同様、プラトンも知徳合一の立場だから、知である最高善は習得することができる。そのための訓練には多くの時間が必要となるから、貴族的な身分の人物しか取得することはできない。徳を身につけていない衆愚による裁判で、師ソクラテスは刑死したのであるから、プラトンは民主主義を侮蔑している。
※『国家』でのギュゲスの指輪の話。人が道徳的にふるまうのは罰せられるのが怖いからでそれ以上の理由はない。「道徳の理由」問題として哲学史上の課題の一つ。(伊勢田哲司『動物からの倫理学入門』)

魂の三部分説と四元徳

 最後に、「魂の三部分説」について説明します。これは、国家論から理解するとわかりやすい。国家の構成員は三部分に分かれる。理想の国家には最高善を習得した哲人が統治者となっている。そのもとに、国家を防衛する戦士たちがいる。かれらは、ポリスを防衛する市民階級と考えてよいでしょう。そして、最下層には、生産に従事する人々がいる。古代ギリシアでは生産労働は奴隷の仕事だったから、これを奴隷と考えてもよい。まとめると、国家には統治者、防衛者、生産者がいる。これと相似形で、魂にも統治者に当たる理性、防衛者に当たる気概、生産者に当たる欲望的部分があると考えます。統治者=理性には知恵が必要。防衛者=気概には勇気が必要。この「統治者=理性」が知恵を持って「防衛者=気概」に指示をあたえ、「生産者(奴隷)=欲望」をうまく統制することができれば、「国家=魂」に節制が身につき、正義が備わる。

 この知恵、勇気、節制、正義を四元徳という。奴隷に対応する徳はないようです。

 2021年07月10日

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