時間切れ!倫理

 35 質料と形相


 プラトンの考えの一番大きな特徴であるイデア説ですが、アリストテレスはこれを受け入れません。この現実の世界の向こう側にイデアの世界があるという考えを、アリストテレスは否定します。否定する理由は色々あるのですけれども、大きな理由の一つとしてはイデア説では現実世界の様々な運動や変化を説明できないと考えたようです。
 事物は形相(エイドス)と質料(ヒュレー)から成り立っていると、アリストテレスは考えた。形相、これが本質。素材のこと質料といいます。
 ここに机があります。この机を作った人の頭の中に「さあこれからこんな机作ろう」という形があってこの机ができます。それがこの机の形が形相。
 机を作るには木材や鉄が必要です。この木材と鉄が質料。プラトンがイデア界にあると考えたイデアを、目の前のこの世界にもってきた。イデアなんかない。目の前のこれやで、と。形と材料しかありません。これだけ。これ以外のものなんかない。それがアリストテレスの基本的な考え方です。この世でないところに、なにかある、なんていうことはないよと。こういう考え意を実在論という。プラトンは観念論ですね。  ちなみに、人間の質料は血や肉や骨ですが、形相はなにか。アリストテレスは理性だといいます。このあたりは注意が必要。単なる形として考えると、彼の意図からずれるようです。

アテネの学堂
 資料集の33ページを見てくれますか。めちゃくちゃおもろい絵(『アテネの学堂』)がある。16世紀のイタリアのルネッサンス期の画家のラファエロが、古代ギリシアの学者たちに憧れて、時期や場所を無視して彼らを全部この絵の中に書き込んだ。絵の中心にいる二人の左がプラトン、右がアリストテレスです。よく見てね。赤い服着て、ちょっと禿げているプラトン。彼が右手で天を指している。これで「イデアの世界は確かにあるのだ」といっているのです。彼と話している左のアリストテレスは、人は右の手の平を下に向けている。「いや、ここしかないです。イデアの世界なんてないですよ。世界はここだけです」。そういう二人の思想を示している絵です。ちなみにこの絵を描いたラファエロはレオナルド・ダ・ヴィンチを尊敬しているので、このプラトンの顔はレオナルド・ダ・ヴィンチがモデル、アリストテレスはミケランジェロという彫刻家の顔がモデルです。絵の右端にはラファエロ自身を書き込んでいます。  

目的論的世界観
 もう少し説明しておきます。ヒマワリの種子をまきます。やがて芽がでて、ヒマワリの花が咲きました。机の例とは違うのだけれど、種子が質料、咲いたヒマワリの花が形相。机も木材と鉄から机になるので、種子・木材・鉄が出発点で、ヒマワリの花と机に向かってゆく。これを目的論的自然観という。
 プラトンのイデアというのは、どこか遠いところに、本当のもの(イデア)があるというのでした。現実の世界って変化するじゃないですか。僕らも年老いて死んでいく、赤ちゃんが産まれて成長し、植物が育っていた花が咲いたり、樹がどんどん大きくなったり、変化がある。イデア説では、イデア界に、本物の樹です、本物のヒマワリです、本物の机というのがあるだけなので、現実の、この現象界の変化を説明できない。目的論的自然観は変化を説明できる。
 出発点となる種子や材木のことを可能態、ヒマワリや机を現実態といいます。このあたりから、ややこしい哲学的な言葉になってきますね。とにかく、プラトンのイデア説を否定したのだという点は押さえておいてください。

memo: 質料因、形相因、始動因、目的因 机の例で。質料因は材木、形相因は机、始動因は家具職人、目的因は机を作る意図・目的。始動因の職人は、なぜ机を作ろうとしたのか。その原因をさかのぼっていくと、他者を動かすが、だれにも動かされないものが存在するはずである。「不動の動者」が存在、それが神である。

 2021年07月23日

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