時間切れ!倫理

 66 旧約聖書 アブラハムとイサク

(オ) アブラハムとイサク

 ノアの子孫がまた地上に広がりますが、何代か後の子孫にアブラハムという人物がいます。この人もユダヤ教では有名なので紹介しておきます。
 アブラハムは神様から非常に愛された人で、神は「お前の子孫は夜空の星の数ほど増えて、一つの国民になるであろう。そのためにカナン(パレスチナ)の地に行け」と命じます。
 この命令の結果、のちのちイスラエル人はパレスチナ地方に住むようになるのですが、この時神から子孫が繁栄するといわれたのに、アブラハムには子供ができない。アブラハムの正妻サラは不妊症みたいで全然妊娠しないんだ。そこで、サラは自分の女奴隷ハガルをアブラハムに与え、子供が生まれます。これがイシュマエル。彼の子孫がアラブ人になりました、という設定です。そのあと、サラが妊娠するというお告げがあって、90歳でサラは妊娠します。生まれた息子がイサク。
 90を超えてできた子供なのでめちゃくちゃ可愛いはず。ところが何年かたつと、アブラハムに神のお告げがある。神への生贄としてイサクを捧げろ、というお告げです。アブラハムはイサクの手を引いて定められた森に入っていく。イサクは「お父さん、生贄の羊はどこにいるの」と聞く。アブラハムは「神様が与えてくれるよ」というのですが、たぶんこの時にイサクは自分が子羊だと気が付いているのではないかな。
 やがて指定された場所に祭壇を築き、イサクを乗せた。アブラハムがその喉を描き切ろうとしたその瞬間、神の声が「その子に手をかけるな」という。「お前の心は分かった。イサクを殺すのをやめなさい」と。ふと見ると祭壇のすぐ横の木に羊が引っかかっている。神様が送ってくれたんだね。これをイサクの代わりに生贄にささげたという話です。
 めちゃくちゃな話なんです。神はアブラハムにお前の子孫は繁栄すると約束しておいて、なかなか子供ができない。ようやくできたと思ったら、少し大きくなってから殺せというわけです。嫌な神様ですね。しかしアブラハムは忠実に神の命に従おうとする。
 この神様はアブラハムを試しています。アブラハムは従順だったけれど、「可愛い息子を生贄にささげるのは嫌だ」とちょっとでも思ったら、アブラハムは罰せられて殺されたのではないか。そう思わざるを得ない。
 なぜこんな神様なのかな。イスラエル人たちは乾燥地域に住み、貧しく、境遇は悲惨です。飢饉でエジプトに逃げたり、国を作っても滅ぼされたり、バビロン捕囚にあったり。なぜわれわれイスラエル人はこんな散々な目にあうのか。そう考えた時に、これは神の試練だ。だから耐えるのだと考えたのでしょう。自分たちの運命を、自分たち自身に納得させるにはそれしかない。そういう気持ちが、このような話に反映されていると思う。
 神様に嫌な事をいっぱいされる。それをアブラハムは耐えている。だから俺たちもこういう運命に耐えよう。バビロンに捕囚されたけれど耐えよう。神の与えた試練だと。

 2022年1月8日

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