時間切れ!倫理

 75 アガペー・隣人愛・神の国

(ウ) 神の愛・アガペー

 なぜイエスはこんなことをいうのか。神様がみんなを平等に愛していると考えているからです。全ての人に平等にそそがれる神の愛、これをアガペーといいます。入試では、この言葉はプラトンのエロースとの対比でよく出てきます。真実の世界を求めるエロースとの区別はつけてください。
 これもイエスの言葉。「心をつくし、精神をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛しなさい」。貧しい人たちに対して、神はものすごい愛を注いでくれている。これがキリスト教の根本です。イエス自身はユダヤ教の人ですね。イエスが活動したのはパレスチナ地方のユダヤ人社会です。イエスもユダヤ人です。ここでイエスは活動して死んでいきます。
 でも、イエスは神の解釈を変える。ユダヤ教の神様は人に対して罰を与える神様です。約束を破ったら罰を与える、そして人を試す神。イエスの登場によってユダヤ教の神様の性格が、罰する神から愛する神に変換されてた。これは明らかにユダヤ教とは違う宗教といってよい。
 神が愛してくれるのだから、君たちも神を愛しなさいといっている。これが先ほどの「心をつくし、精神をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛しなさい」となります。

(エ) 隣人愛

 「自分愛するように、あなたの隣人を愛しなさい」。神がみんなを愛しているのだから、あなた達同士も愛し合いなさいという。これが隣人愛です。隣人というのは物理的な隣人ではないです。病人が「おまえ売春婦じゃないか」といったり、売春婦が「あんた神の罰で病気になったんだよ」と病人を差別していては話にならない。民族を超えても、ユダヤ人ではなくても隣人。隣人に関しては資料集に「良きサマリア人」という話が載っていますので、見ておいてください。
 隣人愛に関しては黄金律といわれる言葉があります。「人からしてほしいと思うことは何でも人にしなさい」。これはキリスト教に限らずほとんどすべての宗教に通じる普遍的な教えとして有名です。

※田川健三『イエスという男』によれば、「汝の隣人を愛せよ」はユダヤ教で大切にされた律法であり、イエスのオリジナルではない。

(オ) 神の国

 「時は満ちた。神の国は近づいた。なんじ、福音を信ぜよ」。これも有名な言葉です。キリスト教は独特の用語が出てきます。福音は神の言葉くらいの意味です。神の国が近づいているんだ。君たち、神の言葉を信じなさい、とイエスはしばしばいう。「神の国」が具体的にどういうものかよく分かりませんが、あくまでも宗教的な話だとは思う。
 ところが「神の国」を当時のユダヤ人の発音でなんというかというと、「イスラエル」といった。かつて、彼らユダヤ人はイスラエル王国を作っていた。いまユダヤ人はローマの支配下にある。そのなかでイエスが説教の中で「イスラエルは近づいているぞ」というと、これを聞いた一部の人たちの間では、イエスはひょっとしたらユダヤ独立運動のリーダーになのではないかという期待が生まれた。そう考えてイエスについてくる人もいます。彼こそユダヤ人を救う救世主ではないかと。このように様々な受け止められ方をして、イエスの人気が高まっていた。

 2022年4月9日

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